「iPodマジック」は起こらない--アップル製ケータイを待ち受ける壁
カレンダーを眺めていて気付いた、2つのことがある。
(a)2007年1月のMacworld開催まであと数週間だ。Apple Computerは、「BlackBerry」に似たスマートフォンを発表すると見られている。
(b)ここ最近、私はAppleファンの反感を買うようなことはしていない。また、最近誕生日を迎えて45歳になった。背中に増えたほくろを心配するよりもっと楽しいことをしなければ。
というわけで、とにかく、Appleの新しい携帯電話が登場するのではといわれている。その仕様は、「スライド式キーボード付き」「4Gバイトまたは8Gバイトのストレージ搭載」「CDMAまたはGSMネットワークに対応」だと伝えられている。価格は、年間契約割引未適用で249ドルからだそうだ。
だがこの電話は、ほとんどうまくいかないだろう。
もちろん、最初はそんな気配もないだろう。あらゆるApple製品の発売時がそうであるように、わざとらしいまでの歓声が沸き起こるはずだ。「人類が壁画を描いて以来、最大のコミュニケーション革命だ」と絶賛する人もいるだろう。「後はぴちぴちのシャツを着れば、ほとんどスタートレックの世界だ」と言う人もいるかもしれない。
いつものことだ。Appleが医療分野に進出すれば、「『iBag』ほど、ユーザーフレンドリーで使いやすい人工肛門バッグがあっただろうか」というSteve Jobs氏の叫びをみんなおとなしく聞くのだろう。
Appleの携帯電話は発売と同時に爆発的に売れるだろう。が、やがて勢いは収まり、「予想外にヒットしなかった」諸々のビデオカメラ、携帯電話、無線ルータなどと同じ棚に並べられることになるだろう。「Mac mini」を覚えているだろうか?小型コンピュータに革命を起こすと言われていたあのマシンだ。しかし革命は起こらなかった。フラットパネルの「iMac」はどうだったろう?Appleが行った価格設定が他のPCの価格を引き上げるという見方があったが、この予想も外れた。
では、Appleの携帯電話が成功しない理由を述べよう。これはきっと素晴らしいハードウェアであろうし、私が米国一のケチ男でなかったら購入するかもしれない。しかし、同電話の販売戦略全体が、私が「iPodマジック」と呼ぶものに頼ってしまっている。「『iPod』は大成功を収めた。つまりAppleには、未知の分野に参入し、その分野を完全に手中に収める力がある」という理屈だ。
異なる状況
ところが、iPodの成功は1度きりの現象に終わるのではないかと思われるのだ。当時の状況を思い出してほしい。2001年後半のiPod発売によって、当時のMP3プレーヤーが抱えていたいくつかの大問題が解決された。その頃のMP3プレーヤーといえば、64Mバイトとか128Mバイトといったフラッシュメモリ型の小容量タイプか、そうでなければ2.5インチのハードドライブ搭載という大型タイプしかなかった。そして、当時のポータブル音楽プレーヤーの王者ソニーは、まだポータブルCDプレーヤーを忘れられないでいた。
ここで、Appleは他メーカーが見向きもしなかった1.8インチのハードドライブを選んだのだ。このオプションに気付かなかったことこそ、業界他社が犯した大きなミスだった。1.8インチドライブの採用により、Appleは小さな筐体に大容量ストレージを収めることに成功した。従来のMP3プレーヤーでは解決し得なかった問題を克服したのだ。最初のiPodで5Gバイトのストレージが実現された。これは、大きいフラッシュメモリプレーヤーと比べても40倍近い容量である。また、Appleはしばらくの間1.8インチドライブを独占的に確保したため、他社も追随できなかった。
iPodはまた、画面が小さくて操作性が悪いという問題も克服していた。Appleは、新たに獲得した人気を武器に、音楽出版社各社に自社の条件をのませることにも成功している。
ところが、Appleにとって不都合なことに、こうした問題は携帯電話ビジネスには存在しない。今の携帯電話は、不格好で使いにくい装置ではない。むしろ非常によくできたツールだ。ほぼ完成形と言えるだろう。上述の携帯電話「BlackBerry」は、別名「CrackBerry」とも呼ばれるが、携帯電話になぜ「Crack」の名が付けられるようになったかご存じだろうか?ずんぐりしたデザインとわかりづらいインターフェースのせいで、操作していると車にぶつかってしまう(crack)からではない。この携帯電話が持つ麻薬(crack)のような中毒性に、誰もが取りつかれてしまうからだ。
サムスン電子は、優れた人材を世界中のデザインスクールに求めるだけでなく、アーティストの受け入れ拠点を米国、アジア、ヨーロッパに設け、電話のデザインを洗練させてきた。Motorolaは、優れたデザインによって勢いを盛り返した。KDDIは、トレンドを敏感につかむため、十代の若者が集まる東京の原宿にショールームを開いている。そして、シャープが携帯電話に搭載した液晶テレビは、非常に高品質なものだ。
つまり、Appleを迎え撃つのは、かつてのCompaqのような、策を持たない動きの鈍い企業とは違うということだ。1カ月に満たないペースで次々と新しいモデルを送り出す、携帯電話メーカー各社の動きは極めて俊敏だ。
もう1つ、Appleは「信用」という課題にも向き合わなければならない。音楽プレーヤーの場合、ことは簡単だ。楽曲をメモリから取り出して、その音を増幅させるだけだ。携帯電話の場合、コンシューマーが最も重要視するのはサービス品質になってくる。聞き取りやすく安定した接続を確保するなど、携帯電話に関するあらゆる課題を、新参企業がすんなりクリアできるとは考えにくい。おそらくAppleは、携帯電話の製造を外部の業者に委託するだろう。しかし、携帯電話の設計には経験と才能の両方が求められる。そして言うまでもなく、業界他社は、この点ではるかに先を行っている。
電器店を訪れたコンシューマーは、Apple製携帯電話を買おうかどうか迷うだろう。手に取り、調べるくらいはするかもしれない。しかし、クレジットカードを取り出すときには、Motorolaの機種を選んでいるはずだ。